改正前の時効停止,時効中断
民法改正(債権法改正)により,時効の停止,中断というわかりにくかった用語は,それぞれ「・・までの間は,時効は,完成しない」(完成の猶予),「・・時から新たにその進行を始める」(更新)となりました(内容は変わりありません)。損害賠償請求権の時効消滅に関してよく用いられる完成猶予,更新の方法としての「催告」,「裁判上の請求」,「調停」,認証ADRの申立てや債務者による「承認」,そして確定判決(と同一の効力を有するもの)後の時効更新についての理解は重要です。
損害賠償請求で時効の完成を阻もうとまず考えられるのが「催告」でしょう。賠償金の請求書などを送付する方法がありますが,相手に催告が到達したことを後に証明しやすいように内容証明郵便によることが多いでしょう。時効完成前に催告がなされれば6箇月間時効の完成が猶予されます(150Ⅰ)。この期間に事案が解決しないようであれば,裁判所へ訴訟提起(147Ⅰ①)や民事調停申立て(147Ⅰ③)等をしなければ催告から6箇月の経過で時効が完成してしまいますし,6箇月の間に再度の催告をすることができないことも明文化されました(150Ⅱ)。
改正法では書面でなされた協議を行う旨の合意に時効の完成猶予の効果があることが新設されましたが(151),上記の催告とは併用できないことには注意を要します(151Ⅲ)。再度の協議の合意は可能です(151Ⅱ。本来の時効期間より5年は超えられません(151Ⅱ但)。)
訴えの取下げや調停の不成立などで手続きが終了した場合には,終了時から6箇月間は時効の完成が猶予されるとの判例法理が明文化されました(147Ⅰ柱書)。判決確定や調停成立があれば,時効は新たに進行を始めることとなり(時効の更新。147Ⅱ),その期間は10年であることは変わりありません(169Ⅰ)。
訴訟や調停の他に,認証ADR機関へのADR申立てにも時効の完成猶予の効果があります。具体的には,ADRで和解が成立しなくてもADR手続きの終了の通知を受けた日から1箇月以内に訴訟の提起をすれば,ADRの申立ての時点で「裁判上の請求」があったものとみなされます(ADR法25Ⅰ)。
- ADRとは裁判外紛争解決のことです。損害賠償請求と関連するADRとしては,各地の弁護士会が主宰する仲裁や紛争解決手続,医療ADR,交通事故ADRなどが挙げられます。
- 上記の時効の完成猶予はADR法により法務大臣に認証されたADR機関(認証ADR機関)への申立てでなければなりませんので,東京の三弁護士会のADRのように認証を受けていないADR機関への申立てをしてもADR手続き中に時効は進行してしまっていることには注意が必要です。